はじめに

3Dプリンタといったデジタル工作機械やIoT (Internet of Things) など、一人ひとりの個性や能力を発揮でき、新たなつながりをつくることができる技術が身近になっています。そこで、私たちは福祉×現代技術によって、新たな仕事をつくること、ケアの環境をよりよくすることを目的に2017年より「IoTとFabと福祉」プロジェクトを全国各地でスタートさせました。

2017年度は、国内4ヶ所(福岡、山口、奈良、岐阜)で「福祉と技術の関係づくり」から進めました。福祉施設・団体とエンジニア・デザイナー・クリエイター・学生が、お互いを知る機会をつくり、「技術で何をしたいのか、技術で何ができるのか」を体験しながら学び合い、協働プロジェクトを開始。「人を育てる」「ケアに生かす」「ものづくりの可能性を広げる」と、各地で目標を設定して成果を共有しました。

2018年度は、国内7ヶ所(長崎、福岡、北九州、山口、奈良、岐阜、東京)に地域を広げ、「仕事」「ケア」にフォーカスした具体的な取り組みを行いました。例えば、手仕事とデジタル技術を組み合せた新たな工芸の開発、3Dモデリング(3Dデータの設計・制作)を障害のある人の仕事にする全国的なネットワークづくり、音楽療法など福祉現場におけるIoTツールの活用例が生まれています。これら現場から生まれた考えやアイデアは、冊子『IoTとFabと福祉の道具とアイデア図鑑 2018-2019』にまとめています。

2019年度は、2018年度の活動をさらに深めていきました。「仕事」に関しては、商品化や販路開拓、生産力や品質、機器の精度やメンテナンスなど、事業化していくなかで出てくる課題に注力。また、新たに道具をつくることで職域を広げ、新たな道具を使うことで表現を拡張することにも挑戦しました。「ケア」に関しては、3Dプリンターによる自助具の開発や、人と人の関わりを深めるためのIoT活用が始動。各地域の間で連携が生まれていることや、次世代の育成に目を向けていることも特徴的です。

そして、これらの実践とあわせて、プロジェクトの推進活動として、勉強会やトークイベント、体験ワークショップ、機材レクチャー、メイカソン、フォーラム、国際シンポジウムなどを開催し、Webや冊子を通して情報を発信してきました。

「自分たちの地域でも福祉×技術の活動をしてみたい」「企業・自治体・デザイナーの立場として福祉施設や団体と協働したい」「セミナーやレクチャー、ワークショップを開催してほしい」「どんなことができるのか、まずは聞いてみたい」など、関心はあるけれど何からはじめたらいいか悩んでいるときは、ぜひ「IoTとFabと福祉」までご相談ください。

全国各地のネットワーク

長崎
  • 株式会社フォーオールプロダクト [MINATOMACHI FACTORY など]
  • 有限会社山﨑マーク
福岡
福岡市
  • 九州大学大学院芸術工学研究院
  • NPO法人まる 工房まる
北九州市
  • 一般社団法人生き方のデザイン研究所
  • 西日本工業大学デザイン学部
  • 北九州イノベーションギャラリー
山口
  • 山口大学国際総合科学部
  • 社会福祉法人大和福祉会 周南あけぼの園・光あけぼの園
  • ファブラボ山口
  • 山口情報芸術センター[YCAM]
  • 徳山工業高等専門学校
島根
  • 島根県立大学
香川
  • 脳性マヒ二次障害を考える会
奈良
  • 一般財団法人たんぽぽの家
  • 社会福祉法人わたぼうしの会 Good Job! センター香芝
大阪
  • ファブラボ北加賀屋
  • 大阪工業大学
  • 自立センター前穂
京都
  • 京都大学
  • 京都産業大学
  • 京都造形芸術大学
岐阜
  • 情報科学芸術大学院大学[IAMAS]
  • 社会福祉法人いぶき福祉会
  • 株式会社 GOCCO.
  • ポップコーン福祉会、みずほ園など
東京
  • 一般社団法人障害者・高齢者3Dプリンタファクトリー
  • 医療法人社団福啓会
  • 東京聖労院
  • ファブラボ品川

2017〜2019年度の流れ

各エリアで実験や取り組みを行いながら、
普及活動のためトークイベントや国際シンポジウムを開催しました。

長崎

全国各地の福祉事業所をサポートする企画・製造工場

体制:株式会社フォーオールプロダクトMINATOMACHI FACTORY、有限会社山﨑マーク

福岡

一人ひとりの表現と手仕事を生かした商品開発

体制:NPO法人まる 工房まる、九州大学大学院芸術工学研究院

北九州

感性を地域や仕事に生かせるデジタルメイカーを育てる

体制:一般社団法人生き方のデザイン研究所、西日本工業大学デザイン学部、九州大学大学院芸術工学研究院

山口

福祉×学生による地域の仕事づくり

体制:社会福祉法人大和福祉会周南あけぼの園・光あけぼの園、ファブラボ山口、山口大学国際総合科学部

奈良

障害のある人の仕事や表現の領域を広げる

体制:社会福祉法人わたぼうしの会Good Job!センター香芝、株式会社スリーディー・システムズ・ジャパン、大阪工業大学ロボティクス&デザイン工学部、ダカラコソクリエイト

岐阜

人と人の関わりを深めるためのIoT活用やものづくりの実験

体制:社会福祉法人いぶき福祉会、情報科学芸術大学院大学[IAMAS]、株式会社GOCCO.

東京

3Dプリント×福祉マーケティングの実践

体制:一般社団法人障害者・高齢者3Dプリンタファクトリー、医療法人社団福啓会、リコージャパン株式会社、XYZプリンティングジャパン株式会社、NPO法人施無畏Co-Co Life ☆女子部

「IoTとFabと福祉」が生まれるまで

奈良からはじまった本プロジェクトには、その前史となる試行錯誤がありました。
illustration: スケラッコ

2011年

活用方法が見出せず、Fab機器を持て余してしまう

2011年、実施した「尊厳のためのデザイン デザインリサーチプロジェクト」で協働したデザインリサーチャー水野大二郎さん(現・慶應義塾大学環境情報学部准教授)が「福祉の世界でも、デジタルファブリケーションは活用できますよ!」と小型のカッティングプロッターを持ってきてくれる。が、うまい使いこなし方がまったく想像できず……。

Good Job! センター香芝スタッフ

藤井克英さん

なかなか自分たちの仕事づくりとデジタル工作機器との接点を見出すことができず。気づけば、放置してしまっていました(笑)。でも、こういう状態にある施設って、意外と多いのではないかなと思います。

2014年〜

デジタル機器を駆使し、新たなものづくりを実践

中川政七商店からの相談で、新たな奈良みやげとして郷土玩具の張り子「鹿コロコロ」を制作。「木型職人が減少し、張り子がつくれない」との悩みに対し、3Dプリンタと手しごとを融合させる方法を考案した。障害のある人の立体作品やイラストを生かし、IoT やFabに詳しい技術者やデザイナーと協力し、「Good Dog」をはじめ、さまざまな商品開発を展開!

Good Job! センター香芝スタッフ

藤井克英さん

はじめてFab機械を導入した際に、「レーザーカッターは虫めがねで光を集めて焦がすのと同じ仕組みなんですよ!」と、レクチャーを受けたことで、とても身近に技術を理解することができました。

2017年〜

IoTとFabの可能性を感じ、さらなる取り組みをスタート

「Good Dog」を受注(2000個!)するなど、張り子づくりが本格的な仕事に。3Dプリンタを貸し出し、5ヶ所の福祉施設で製造レシピをシェアしたネットワークも生まれてきた。一方、「Fabだからこそ実現できるものづくり」や「IoTを活用した仕事づくり」など無限に広がる可能性を感じている。さらなる実践と試行錯誤を続けるべく、プロジェクトが始動!

たんぽぽの家スタッフ

小林大祐さん

2017年より「IoTとFabと福祉」プロジェクトを始動。IoTやFabの技術・ツールについての勉強会、全国4拠点での福祉施設×技術者によるプロジェクトを通して、ともに考える状況が生まれています!